学科教員の結城です。
今回は、私が担当している「心理学統計法Ⅰ」の講義についてご紹介します。
突然ですが、読者の皆さんに質問です。人の心は読めると思いますか?
あるテレビ番組で、有名人が1〜5の数字が書かれた5枚のカードから1枚選び、それをメンタリストとされる方がその選んだカードを当てるという企画をやっていました。彼を見ていると,あたかも対象の心を読めているようで驚かされます。しかしこれは、ある状況下に置かれた人間の癖や特徴などを知り尽くした上でのテクニックであり、その技術に長けている人が彼なわけです。そういう意味では、「心を読んでいる」という形容は正確ではないでしょう(そもそも「心とは何か?」という議論になりますが、ここでは割愛します)。私も彼のようなテクニックがあれば、もっと人気者になれたかもしれません(笑)
私は社会心理学を専門としていますが、心理学のことをあまり知らない人からは「心理学が専門なら、今私が何を考えているか分かりますか?」とよく聞かれます。その時の私の回答は決まって「いやいや,読めませんから」です(笑)。
では、心が読めるわけではない心理学は、一体どんな学問なのでしょうか?心理学を形容する際、「心理学は限りなく理系に近い文系である」と言われることがあります。心理学ではアンケートや実験を行い(データの収集)、そのデータを計算,図表化し(分析)、その行動を支える心のメカニズムを推論します(推論)。まさに理系の学問のようです。ただ、心は直接目に見えませんので(これを難しい言葉で「構成概念」といいます)、どのように心を測るのかが問題になります。例えば、体重や身長を測るには体重計や身長計を使えばいいように、心を測るには直接観察できない心を数字や文字に置き換えることで観察可能にしているのです。例えば、アニメ「ドラえもん」が視聴者に人気があるのかを知るために、「アニメドラえもんについてどのように思いますか?」と自由に感想を聞く形式で尋ねると「ドラえもんに出てくるのび太くんは好きだけどジャイアンは好きじゃない」や「こんな便利な道具を私も欲しいと思います」という回答が得られるかもしれません。もちろん,このような自由記述形式は多種多様で豊かな意見が収集できる方法ではありますが、回答の解釈に研究者の主観が入り込みやすくなります。しかし,『あなたはアニメドラえもんがどのくらい好きですか? 「1. まったく好きではない」〜「5. 非常に好きである」から当てはまる数字に○をつけてください』というように数字を用いて分析することで、自由記述形式よりも情報量は少なくなるものの、研究者の思いつきや考え方に左右されない客観性が担保されるといえます。
前置きが長くなりましたが、この「心理学統計法Ⅰ」という授業は、そうした人の心を測定するために必要な、初歩的な知識や技術を習得するための重要な位置づけの講義となっています。例えば、多くの人はテレビで選挙速報を見たことがあると思いますが、なぜ開票率が1%なのに「当選確実」が出るのか不思議に思ったことはありませんか?これは、選挙の出口調査で少数の人に投票した人を尋ね、限られたデータをもとにして分析することで、その背後にある結果を予測しているのです。この他にも、テレビや新聞で報道される内閣支持率なども統計学を使っています。
授業では数値や難しい表現を避け、できる限り身近な例を取り上げて理解してもらえるように心掛けています。私もそうでしたが、文系には数字を見ると拒否反応を示す人が多いので、数字に対する苦手意識を持たないようにシナリオ形式の例を使って身近な話題で解説しています。また,授業内では単なる座学だけでなくExcelを使って簡単な分析を行ったりもしています。
心理学統計法を学ぶことは、私たちの社会を理解することにもつながります。そして,何かを語る際のエビデンス(根拠)として大きな役割を担っているのです。
さあ、苦手意識を克服して、一緒に心理学統計を学んでみませんか?