みなさん,こんにちは。
心理福祉学科教員の結城です。
今回は,「心理学を学ぶことは社会を理解することである!」と題し,私が担当している心理学,あるいは心理統計学についてお話ししたいと思います。ともすると挑戦的なタイトルかも知れませんが,もしよければ最後までお付き合いください(少々長いです)。
まず,みなさんは「心理学」と聞くとどのようなイメージを持ちますか?
カウンセリング,性格検査,プロファイリング,メンタリスト,心が読める(実際には読めませんが)…など,人によってさまざまなイメージを持っているかと思います。
この心理学を定義してみると,心理学とは「心と行動の科学」ということができます。
心理学が科学(Science)?と違和感を持った方も多いと思います。確かに,心理学は理系か文系でいえば文系に分類されることが多い学問ですが,実は,心理学は「限りなく理系に近い文系の学問」と表現されることもあります。その理由は,心理学は多くの場合,実験や調査などを通じて統計学の知識を使って人間の心を理解する学問だからです。
ちょっと意外ですか?
この点をもう少し掘り下げて考えてみましょう。
少し難しい表現になりますがご了承ください。
心理学では人の行動のメカニズムを説明するために,研究者によって人為的に構成された概念を想定していますが,それを構成概念といいます。例えば,知能,感情,性格等がこれにあたります。知能や感情,性格等は直に目で見たり,味わったり,嗅いだりすることはできませんよね?この構成概念の影響を受けると考えられる行動や態度を測定することで,知能,感情,性格等の目に見えない概念が実在するものとして検証していくのです。
では,具体的にどのようにして行動や態度を測定するのでしょうか。それは,人の行動や態度に数字を当てはめるという方法です。例えば,「あなたはリンゴが好きですか?」という質問項目があり,それに対して「1. 当てはまらない」「2. あまり当てはまらない」「3. どちらでもない」「4. やや当てはまる」「5. 当てはまる」という5つの選択肢があったとします。もしあなたがリンゴを好きであれば「4. やや当てはまる」か「5. 当てはまる」を選択することになり,割り当てられた数字の大きさに対応して「リンゴに対する態度」が測定可能になります。つまり,「リンゴに対して肯定的な態度を持っている」ということになります。
心理学に限らず,社会科学といわれる学問領域ではこのように統計学の知識が必須とされています。では,なぜ統計学の知識が必要なのでしょうか。
それは,根拠に基づいて正しく世の中を理解するためです。あなたは「私は○○であると思う」と「データでは○○になっている」という場合のどちらの意見を信用しますか?前者は「私」が主観的に判断していて,後者は「データ」に基づいて客観的に判断していることになります。したがって多くの場合,後者の方が説得力を持つことになるのです。
もちろん,データが客観的指標だからといって,それが常に正しいとは限りません。データ(数字)そのものは間違っていなかったとしても,無意識的にあるいは意図的に解釈を誤る(誤らせる)ことはあります。
例えば,お正月にお年玉をもらったとします。5人の子どもたちがもらったお年玉の金額で盛り上がっていました。その金額は以下の通りです。
Aくん:10,000円
Bさん:8,000円
Cさん:9,000円
Dくん:12,000円
Eさん:100,000円
試しに5人がもらったお年玉の平均金額を出してみましょう。
すると,
(10,000+8,000+9,000+12,000+100,000)/ 5 = 27,800円 となります。
なんだかやけに高額ですね。実際には多くの子どもが1万円前後のお年玉しかもらっていないわけなので,ちょっと不当に金額が大きい気もします。
その原因を考えてみると,Eさんだけ飛び抜けて金額が高いことがわかりました。
そこでEさんを除いた4人でもう一度平均金額を出してみます。
すると,
(10,000+8,000+9,000+12,000)/ 4 = 9,750円 となり,比較的実態に近い金額になっていますね。
Eさんを含めた5人がもらったお年玉の平均金額は数字上間違っていませんが,それが実態を正確に表しているかといえばそうではない場合もあるのです。
つまり,数字は嘘をつかないけれども,それを扱う人間に数字を扱う知識がないと世の中を正確に理解することは難しくなる場合もあるのです。
さて,こんな話を聞いて「私は完全な文系だから統計学なんて絶対ムリ!」と心配になっているそこのあなた,大丈夫です。私も心理学を学び始めた頃は統計学にアレルギー反応を示すくらい苦手でした。でも,少しずつ学んでいくうちに,人の心を科学的アプローチで理解していくことの楽しさに気づき,今では好きになりました(「得意」というわけではないことに注意)。「好きこそものの上手なれ」ということわざにもあるように,まずは楽しむことが肝要です。本学に入学して,私と一緒に心理学,心理統計学を楽しんでみませんか?