最近、通信制の高校が増えてきており、学びのかたちが多様化しているのを感じます。
通信制だからどうということはないのですが、私のゼミには通信制高校出身の学生が数名いて、ふと「通信制ってどんなところだろ?」
「ゼミ活動めっちゃ頑張ってくれたけど通信制高校から大学(通学)へってどんな経験をされてきたのかな?」と思い、ゼミ生の木村さん(仮名)にインタビューすることにしました。
彼女にとって通信制から大学進学へは「大チャレンジ」だったそうです。その言葉が示すように、いろいろな壁にぶつかりながらそれでも自分なりのペースで歩まれてきたようです。
ちょっと長いかも知れませんが木村さん(仮名)の名言なんかもありますのでどうぞ最後までご覧ください。
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- 通信制高校時代の過ごし方・学び方について
Q:通信制高校に通っていた理由や背景は?
木村さん:先生の紹介がきっかけでした。もともと小学校高学年あたりから人とのつながりにストレスを抱えていて、中一の冬から不登校になりました。
その後中学校にはいったりいかなかったりを繰り返しましたが、中学入学以降はずっと通信制で学んできました。
Q:高校時代の1日の過ごし方・学習スタイルはどんな感じだった?
木村さん:週2で通っていました。レポート、教科書をみて穴埋め式の課題を期日までにやって提出というかたちでした。授業自体はクラス制ではなく大学のスタイルに似ていて授業の教室に各自いくというかたち。週2の登校は楽しみでしたね。人間関係にストレスを抱えやすい私にとっては、煩わしい人間関係がそもそもなかったことがよかったのかもしれません。
Q:通信制ならではの自由さや難しさは何だった?
木村さん:通信制の良さは、人との程よい距離感です。近づきすぎるとストレスを抱えてしまう性格なので距離感を取れるのが良かった。難しさは、自分を律する必要があることでしょうか。全日制の高校に比べて自由時間が多いため、本を読めた一方、ゲームや遊びの時間もたっぷりあって。ゲームしすぎて夜更かししてしまうということがあり、大変でした。ただ自分で計画立てる力はつくかもしれませんが、それでも課題以外で勉学について取り組んだことはなかったので通信制は自分でしっかりやらないといけないという難しさはあると思います。あと学祭なんかもあってそれは楽しかったですね。学祭への参加度なんかも自由で自分のペースにあっていました。
- 大学進学の動機と準備
Q:大学に進学しようと思ったきっかけは?
木村さん:正直に言うと猶予期間がほしかったというのがあります。大学に行けば進路を考える時間ができるかなと思ってその時間を確保したかった。
進学者の多い高校だったこともあり通学制への進学は選択肢には自然に入っていました。
Q:進学にあたり不安だったこと、準備したことは?
木村さん:面接練習ですね笑。ノックして入って、座っての流れ(笑)、あがっちゃうときはどうすべきかとか
Q:なぜ今の大学・学部を選んだのか?
木村さん:人の心がわからず困ったことが多かったので心がわかれば違ってくるかも、という厨二病的な思いから(笑)、心理系を志望しました。この大学だったのは、親しみやすいイメージがあったからです笑。
- 通学制大学への適応と変化
Q:入学当初、環境の変化で戸惑ったことは?
木村さん:当初はコロナがおさまりかけの時期でしたがオンライン授業だったのでシステム系に弱い私はそこ自体への戸惑いがありました。ただ大学の授業形態自体はあまり戸惑いがなかったです。通信制高校と大学(通学)は授業スタイルが似ているので通信制高校の「毎日版」みたいに理解していました。ただ予習課題には戸惑いました。通信制とは違う学習スタイルで通信制高校にはなかったので。それが結構大変だったことで負荷になりました。今でこそシラバスに記載されている目安の予習時間はあくまでも目安にすぎないと理解していますが、そうでなかった当時はシラバスに記載されている予習の目安時間をみるのがしんどかったですね。
Q:通信制出身ならではの強みが活きたと感じた場面は?
木村さん:全日制がいまいちわかっていないのでよくわからないですが・・・、遊びの時間があったので、たくさん本を読んだので雑学的な知識を得たことでしょうか。あとは外出が苦手だったことから、通学のときの徒歩の時間が天気がいいなとか今日は鳥がいたな、花が咲いているなど、季節を感じることができたりするんです笑。毎日家を出ることができる人からしたら当たり前のことを楽しめた。毎日外に出られたことを普通と片付けるのではなく、外でられて偉い!と褒めてあげられたりします。通学するという、いわば大抵の人ができていることを私は尊敬できるし、普通のことをできたことで自分を褒めてあげられることはもしかしたら通信制高校出身であるがゆえの、良さ、強みなのかもしれません。早起き、身支度できた、授業に出られた、ということをいまでも褒めることができます。用事がなければずっとパジャマだった高校時代に比べると、成長ですよね。自分を褒めてあげられる視点は、通信制にいたからかもしれません。苦手なことが多いということは、それだけがんばっている自分がいることですし。できないことをポジティブに捉えられている。そして自分が苦手なことが多い分、他者への目線も優しくなれている気がします。
Q:通学制の授業や友人関係にどうやって慣れていった?
木村さん:1年の頃は慣れなかったですね。とにかく毎日授業があることに疲弊していて。結局一度、パンクして、うまくできませんでした。でもそこから授業を減らして調整するようにしました。無理しないように。ときに必修を履修しないことにヒヤヒヤ感はありましたが、週3にして通信制のペースに履修を組み直しました。そのうちに授業の受け方がわかってきました。今思うと、肩の抜くための時間が必要だったのかなと思います。通学制の大学に通っていても、ペースを整えていけばやっていける。無理に普通になろうとしなくていいなかもと思えていきました。そうやって段階を踏んでいく感じでまず慣れようと。まずは先生に。次に建物に。建物に慣れていくとリラックスできる時間が増えます。そしたら今度は授業の形態に慣れて、リラックス時間を増やしていってという具合でした。
- 現在の大学生活と学び
Q:今、特に力を入れている授業や活動は?
木村さん:昨年度のゼミ活動でした。今は正直、燃え尽きていて笑 残り単位を回収している時間です笑
教員:あのゼミ活動で木村さんの活躍はすごかったもんねー。前に出てくれる学生がいる一方で、木村さんは助成金を申請するための書類、文章作成を見事にリードしてくれて。緊張しながらも責任もって取り組む姿は本当に立派でした。
あの木村さんの姿をみてやはりチームというのは持ち場が日の当たる場所かどうかは関係ない、それぞれの持ち場で励むから成り立つのだと改めて感じましたよ。本当にありがとう。
Q:大学生活の中で「ここが面白い!」「意外だった!」と思うことは?
木村さん:意外だったのは意外と完全にひとりぼっちでもどうにかなるところですね笑 白百合の学生は優しいので気を使って手を差し伸べてくれる学生も多かったのですが、どうしてもその好意や優しさをうまく受け止められなかったりする自分もいて。もともと人付き合いが苦手だったので、気を使って手を差し伸べてくれる人からも若干距離を置いてしまったのですが、それでもどうにかなりました。ひとりぼっちでもなんとかやっていけるのは大学のいいところだと思います。
- 大学を目指す通信制高校生へのメッセージ
Q:過去の自分にアドバイスするとしたら何を伝えたい?
木村さん:完全にしんどくなって学校に行けなくなる前に、先生に相談してみると良いよ、ですかね笑 まあちょっと難しいかもしれないけど。あとはシラバスを鵜呑みにしないということでしょうか。文面通りに受け取らずにある程度、完璧を目指さなくてもいいのだと言ってあげたいです。
Q:「通信制だからコミュニケーション的に不利」と思っている人に伝えたいことは?
木村さん:コミュニケーション苦手でもこの大学ではわりとどうにかなります笑 最低限、ありがとうとごめんなさいが言えればなんとなかなります笑笑。約束忘れちゃったときとかはごめんなさい、プリントとってもらったときはありがとうという具合に笑 この大学の学生は落ち着いた雰囲気ですし学生のうちはそれで許してもらえるので笑、通信制高校出身でコミュニケーションや全日制での人間関係に心配している学生には「安心してほしいな」と思います。
Q:この大学に入って良かったと思う瞬間は?
木村さん:日常生活が触れられないようなキリスト教のエッセンスがそこらに散りばめられているのでそこが楽しいです。私はキリスト教徒ではありませんが、キャンパス内にあるステンドグラスとかをみあげて綺麗だなと思う瞬間が好きです。もともと神話が好きで、モノに込められた意味や象徴に関心があります。ブドウ酒はキリストの血の象徴というのは有名ですが、ブドウなどのモチーフがステンドグラスに込められているのはそれが理由なんだろうなとか考えています。それをみて時々、ブドウを食べたくなったり笑
あとは本を読めるところ、図書館が楽しいですね。図書館は公共のものもありますが、大学の図書館は専門書が充実しているので面白いです。読み切れるか読み切れないかはおいといて、自分の関心から専門書を読む時間が楽しいです。この間は水の妖精についての社会学?だったかな。そのような本を読みました。結局、借りても読み切れないものも多いけど、興味をもってその世界をのぞいてみる瞬間は大学ならではだと思います。
あとは授業などでこれまで触れてこなかったことに触れてそれを大学図書館で調べたりというのもいいですね。ゼミの論文講読もそうですが、高校では触れなかったこと、この大学では自分では検索しようとも思わない知識に触れることができます。大学の授業でなければ一生触れなかったことを知って興味関心をもってそれを調べる瞬間はとても楽しいです。
こうした瞬間が将来役に立つかはおいといて「楽しいね」ってことです笑
- 自由・印象的な一言
Q:あなたの「通信制→通学制」への転換を一言で表すと?
木村さん:うーん・・・・大挑戦、大チャレンジですかね。高校卒業間近になって推薦で受けましたが不合格かもと不安になって、その後入学の通知がきて、ほっとしたがすぐにナーバスになりました。「できるならこのまま通信制通ってたいよ」「進学やめようか、やめたい」という思いになったことを覚えています。実際、1年生のときにパンクしたときも、そりゃそうだろうなというふうに構えられたくらい、私にとって通学制の大学に進学することは大チャレンジでした。そもそも慣れた環境から慣れない環境にいくことに大きなストレスがありました。今も就職活動でストレスばっちりかかっています笑
ただ振り返ってみて、入学して本当によかった、チャレンジしてよかったと思っています。あのとき、進学しないで小さなバイトから始めているのもできないことではなかったし、社会により速く馴染むにはそれでもよかったかもしれませんが、大学卒業したという肩書きと実績はやはり大きいと思っています。何よりここでしか得られなかったものがあるので、苦しんだりした時期もありますが無駄ではなかったと思っています。ただ未来に先送りしてきたことをいま食らった感はあります笑。そんなときは過去の自分に「ちくしょー」「ふざけんなよ」と思うこともありますが、まあ今やるしかないかなと思ってやってきましたし、それでよかったと思っています。
Q:大学生活を通じて自分にとって「学ぶ」とは?
木村さん:用意されたものを取り込むだけではなく、自分の興味のあるものを取り込むことですかね。高校ではただ授業に関しては出されたものを取り込んで要求されたものを出してということになり、大学でももちろんそういう科目はありますが、それ以外の場面で授業をきっかけにして自分から関心をもって図書館で本を読んだり、ゼミ活動をしたりすることなどは通信制高校までと全く違います。
特にゼミ活動で役割をもらってそれを最後までやることはとても通信制出身者からは大きいことで、私にとってはそれが学ぶということだった。通信制はそういうことが多くなかったです。学祭実行委員などもあったが積極性がなく、引きこもりがちな私などは行わなくてもなんとかなった。一方で、ゼミ活動では私のようなものでも果たすべき役割があって、それを果たすことが求められました。最初は戸惑いばかりでしたが、ゼミ活動では否応なしに誰かがやらなければいけない役割があり、そしてそうした役割は意外とグループ全員分あったりする。一人はリーダー、一人はバックアップ、その他、パワポ作成、報告担当、調査するときにはインタビュアーをやるなど。私は前に立つのが苦手だったので文章作成などの役割を担いました。そうやって必ずみんなに役割があって。そこが新鮮でとても大変でしたが、今振り返ればそれが楽しかった。周囲に対する役割と責任、だと思いますがそれが大きすぎない。小さいけど、潰れない程度の小さな、自分に抱えられる程度の責任をもらえる。例えばレジュメ作成と発表は、小さいけど自分が抱えられるサイズの責任。自分の裁量でできる責任で、チームを助けていることを経験できた。それが私にとっての学びですね。
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はい、インタビューは以上です。
通信制出身者ゆえのしんどさはあったと思いますがそれ以上に大学での学びの奥深さや彼女が経験していることの楽しさや充実感が伝わりました。
彼女のいう「自分が抱えられるサイズの責任」「潰れない程度の責任」は、名言ですね。社会にでていきなり大きな責任を引き受けると潰れてしまうけれど大学なら失敗しても良いし、自分が抱えられるサイズの責任から経験を積んでいくことができる。そういう経験を提供できることにも、通信制からすぐに就職するのではない、大学教育の良さがあると思います。
最後に一言・・・。「自分涙いいっすか😭」彼女の成長っぷりに感動しました。
木村さん、本日はインタビューを受けてくださりありがとうございました!!!
残りの数ヶ月、就活の大波にぶつかりつつ、学生生活を楽しんでください。
それでまたしんどかったらいつでも研究室に相談にきてください。
カントリーマアム用意してお待ちしています。