学科教員 中嶋です。
今回は、私が担当している3年後期のカウンセリング演習という授業の一部を紹介いたします(ちなみに画像は昨年度後期のものです)。
カウンセリング演習は、公認心理師や臨床心理士といった「心理臨床家」の姿勢を実践的に学ぶ演習です。
2020年度からは、公認心理師養成を鑑みたカリキュラム対応等々の関係で、「心理学的支援法(演習)」という科目名に変わります。
しかし、ワタクシは、担当し始めた時から、既に公認心理師のカリキュラムをイメージして、内容を決めていたので、科目名が変わろうが、この演習で行う根幹の部分は、殆ど変わりありません。
この演習は、前期のカウンセリング論(心理学的支援法(講義))で、カウンセリングや心理療法の原則や色々な理論を、本当に急ぎ足であっさりと学んだ上で履修します。
他人様の大切なお話をうかがうにあたって、
「こちらの姿勢や返す言葉の一つ一つがどういう意味をもっているか?」も、当然向き合い、考え続けるのが、専門的訓練でもあれば、一生、行っていかなければいけないことなのです。
心理臨床家を志すきっかけの中に、話を聞くのが得意、人の助けになりたいという思いを抱いている人もいることかと思います。
しかし、それを職業にするならば、自分主体ではいけません。
相談に来られる人(=クライエント)、すなわち相手様が、「話ができてよかった」、「すっきりした」、「ホッとした」という情緒的な体験だけでなく、こちらの的確な問いかけで、「こういう観点で考えるのが大切だと思えた」とか、「自分はこういう人間なんだ」と、時に気づくことができる面接をしていることの方が大切です。
そんなわけで、この演習はその初歩的な訓練を実践的な演習として行っていて、
この記事では、まず、超基本の「応答訓練」の場面の一部を取り上げます。
応答訓練とは、クライエントが話した短い話をもとに「心理臨床家として、あなたならどう応答するか?」「どういう言葉を返すか」ということを考えていただきます。
そして、1人1人、誰かと同じ言葉の応答だったとしても、「どうしてその言葉で返すことを選んだか」を自分の言葉で、説明してもらいます。
何故こんなことをするかというと、
自分がどの情報に注意が向きやすく、どういう反応を返しやすいかを知ること、
他の人の応答も知ることによって、「こんな返し方や考え方もあり得るんだ!」ということを知るためというのが表面的にはあります。
ワタクシは教員という立場なので、多少のリードをしますが、
皆さんの反応をこうした演習で知り、こんな応答の可能性もあると学ばせていただくこともあるので、私も学ばせていただいている立場です。
誰一人同じ人もいないし、同じ経験をしていることはありませんから、 他人様の心や体験から学ばせていただく価値があります。
同じ体験でも、同じ語り方をする人がいないということを体感できるし、その意味では一生学び続けられることができるのが、この仕事の醍醐味の一つなのです。
ですから、ホワイトボードは、すぐにこんなふうになります。この連続です。
こういうのを何度かやっていくと、皆さんの個性や持ち味も見えてくるのも実に楽しいのです。
また、私が演習で伝えたことがどう吸収されて、応用しようとしているか、その過程もゆっくり見えてきます。
最初から上手くできるなんて、あり得ません。
心理臨床家のする応答に、正解はあって、ないようなものです。
つまり、ある一つの「この応答だけが正解」ということは、まず滅多にないけれど、「明らかにしてはいけない応答」があるということです。
それと、クライエントの同じような話に、心理臨床家の反応が一つしかなく、
機械のようにいつも同じことばかり返ってくるというのでなく、「こんなふうに返せる」という可能性を知り、いくつかの反応のバリエーションを持っておくことが大切です。
色々書き尽くせませんが、難しさと奥深さを現実味を持って気づいていくと、
「あー、こんな文脈の理解の仕方があったか!」とか、
「もっとこんなふうに返したかった」、「もっとわかりたかった!」
という気持ちが起こるようになります。
そして、学生さん側は「もう少しやってみたい!」という気持ちが湧いてくるようです。
こんなふうに、ものの見方や想像の仕方を「深めるってこういうことか」と少し感覚としてつかんでいく、「最終的にこう返す」と学んでいくのが、応答訓練の一つです。
次は、子どもを対象とした、心理療法の一つである、遊戯療法のやりとりの様子です。
画像を見ても、「何のことやら?」かもしれません。
たくさんおもちゃがあると、それだけで遊びたくなったり、魅力的で、子どもの自発性や探索心を促すものですが、心理臨床の場にくる子は、そうとも限りません。
知らない大人が来て、「遊ぼう」と言われて遊べない子もよくいます。
そりゃ、そうですよね。それもごく普通の素直な反応なのです。
心理臨床家として、どんなふうに子ども役に話しかけたり、待つのか、
自分の立ち位置や目線も含めた距離感をとるのかなど、
面接室で話す相談場面よりも、色々な側面で応用編であることも多いのです。
さらにさらに、
本学は、社会一般の方が来られる大学附属の心理教育相談室がないので、
それに近い雰囲気の応接室をお借りして、言葉でのやりとりをする面接を行っています。
・・・と、こんな雰囲気で、それなりの時間、面接をし、次回の演習までに文字起こしをしてきてもらいます。
そして、先程の応答訓練の応用編として、同じように指導を加えていきます。
(専門用語でいうと、ライブのスーパービジョンです)
この他にも、色々なアプローチから心に関わることを現場感覚の視点で学ぶことができます。
どういう言葉や態度を示すと、どんな反応が出てきてとりだせるか、どう心が動くかを、自分自身でつかみとることができます。
心理臨床家は、仕事として出てしまえば、1人仕事であることが多いです。
特に自分が何を感じ、どのようにしたかに尽きますので、自分自身の考えや判断がしっかり意図があった上でのことになっているよう、訓練されていることが大切になります。
頑張った分、心や状況を読み取る視野が「ちょっとだけ」広がる演習ですから、頑張った分だけ成長を実感できると思います。
2020年度からは、心理学的支援法(演習)という科目で、この大半の内容を扱いますが、学んでいただく要素は、それほど変わりありません。
大学院に進学した人は、この手の訓練を受ける(と思います)ので、それを体験できる演習でもあると思います。
もちろん、心理臨床家を目指す人でなくても、心の奥深さや多様性を他人から学ばせてもらえる点で、魅力的な演習だと思います。